2007年 04月 16日
落水荘のこと 天野俊歩 |
落水荘のことについて私のブログに2回に渡って載せましたが、浪崎さんからの要請もあり、その内容を若建の皆様向けに一部変更して投稿します。
フランク・ロイド・ライトがアメリカのペンシルヴァニア州に設計した滝の上に建つカウフマン邸=落水荘は、実際に訪ねてみると意外にこじんまりしており、自然の中に溶け込むその姿にあらためてライトのすばらしい感性を感じます。
今では有名になり過ぎて世界中から訪れる見学者は年間75、000人を越えるそうで、途中のフリーウェイ(ハイウェイとは言いません)にも案内の標識が出ているほどです。
上の写真は敷地入り口から続く道の途中から、ちょうど建物が現れたところで撮られたものです。訪問者はこのあと右の橋を渡りながら滝の上に浮くように建つ建物を横から眺めて裏手の玄関へと導かれて行きます。この導き方もうまい!ドラマを観ているかのような感動を覚えます。木々の足元の潅木はシャクナゲで、初夏には谷も建物も白い花で埋め尽くされるそうです。
そのシャクナゲが邪魔をしてここからは建物下にある滝は見えません。カウフマン夫妻はこの滝がたいそうお気に入りで滝を眺めながら暮らしたいと思って、この写真を撮っている手前側に建てるつもりでいたところ、ライトは滝の音に包まれて暮らすようにと、大胆にも下の写真のようにその上に建物を計画しました。
この写真のアングルはあまりにも有名ですが、わざわざ谷へおりなければこのようには見えず、普通に暮らしている限りは建物は自然の中に溶け込んだ控えめなたたずまいです。
自然にとけこむような生活を実現させるとともに、自分の設計した建物をアピールする姿を用意することも忘れないライトの天才的ともいえる演出のうまさには脱帽です。この姿が見える場所まで階段や道が当初から造られていることや、最初からこの姿のスケッチを描いていたことからもライトの意図は明白です。
(もし私が設計を依頼されたらカウフマン氏の希望と同じく、やはり手前側に計画したでしょう。建物は北向きになりますが、日本の庭園と同じように背後からの日の光の移り変わりによって変化していく滝と流れの趣き、そして木々の表情などを楽しむことができるからです。)
ここで落水荘が建設される前の滝の写真を載せておきます。
初めの写真の場所から橋を渡って建物の後ろに周りこむと低いパーゴラが迎えてくれます。その下を歩いて左の石の壁の間にある入り口から室内へ入ります。
ライトの設計による建物のほとんどが入り口の高さを2mほどに抑えており、室内に入ってからの広がりをより強く感じさせようとしています。それは映画「華麗なるギャッツビー」の舞台になったエニス邸のような大邸宅やジョンソンワックス本社のような建物でも変わりません。
もういちど全景をみてみましょう。こんどは秋の夕暮れ時の姿です。
この建物が思っていたよりも小さいと書きましたが、それではなぜ写真では大きく感じられるのでしょうか。
それは建物を支えて垂直に立っている壁が水平線で構成された石積みの姿をしていることにあると思います。上下の力を強く感じさせるためにはその部分は水平線を強調した姿にするのが有効な手段です。このことが建物をより雄大な感じにしています。
水平に延びたコンクリートの部分は金色に近い色が塗られていますが、ライトは当初金箔を張るつもりでした。しかしカウフマン氏が反対し断念したとのことです。ライトは訪れたことのある京都の鹿苑寺の金閣が頭にあったようです。これはカウフマン氏に軍配を上げたくなります。
あと一つカウフマン氏の功績があります。それは居間の暖炉の前の床から自然の岩を削らずにそのまま露出させたことです。この岩はもともと滝の上にあって、建物が建つまでは夫妻はよくここに座ってくつろいだ場所でした。この提案にはライトも感激したとのことです。
よく見ると張り出したコンクリート部分が少し前に垂れ下がっています。これは建設途中で構造に不安を覚えた建設会社と現場を監理していた弟子がライトに無断で鉄筋量を2倍に増やしたためかえって重量が増したこととコンクリートが鉄筋に邪魔されて回りきっていないためではないかと言われています。この鉄筋量を増やす件はカウフマン氏の承認も得ていたそうですからライトだけが知らなかったわけです。
またライトは、あらかじめバルコニーの先端を上げてコンクリートを打つように指示していたのですがそれも無視されたようです。
最後に突然ですが、居間の隅にあるダイニングスペースの写真を載せます。
奥に2階から降りてくる階段が見えます。私はここでなんとも落ち着かない思いがしました。それはテーブルに着くと背後に階段があるからです。
階段の下の方に腰壁のある踊り場を造って下りる方向を右の居間の方へ振っていればダイニングはもっと落ち着いた感じになったし、2階から這うように下りてくる冷たい空気も防げたのではないかと思います。
2階から下りて来てほんのちょっと高い踊り場からダイニングを見下ろし、向きを変えて居間に降り立つ、いいと思いませんか?
しかし私にとってはこの建物は何度でも訪れてみたいものの一つです。
フランク・ロイド・ライトがアメリカのペンシルヴァニア州に設計した滝の上に建つカウフマン邸=落水荘は、実際に訪ねてみると意外にこじんまりしており、自然の中に溶け込むその姿にあらためてライトのすばらしい感性を感じます。
今では有名になり過ぎて世界中から訪れる見学者は年間75、000人を越えるそうで、途中のフリーウェイ(ハイウェイとは言いません)にも案内の標識が出ているほどです。
上の写真は敷地入り口から続く道の途中から、ちょうど建物が現れたところで撮られたものです。訪問者はこのあと右の橋を渡りながら滝の上に浮くように建つ建物を横から眺めて裏手の玄関へと導かれて行きます。この導き方もうまい!ドラマを観ているかのような感動を覚えます。木々の足元の潅木はシャクナゲで、初夏には谷も建物も白い花で埋め尽くされるそうです。
そのシャクナゲが邪魔をしてここからは建物下にある滝は見えません。カウフマン夫妻はこの滝がたいそうお気に入りで滝を眺めながら暮らしたいと思って、この写真を撮っている手前側に建てるつもりでいたところ、ライトは滝の音に包まれて暮らすようにと、大胆にも下の写真のようにその上に建物を計画しました。
この写真のアングルはあまりにも有名ですが、わざわざ谷へおりなければこのようには見えず、普通に暮らしている限りは建物は自然の中に溶け込んだ控えめなたたずまいです。
自然にとけこむような生活を実現させるとともに、自分の設計した建物をアピールする姿を用意することも忘れないライトの天才的ともいえる演出のうまさには脱帽です。この姿が見える場所まで階段や道が当初から造られていることや、最初からこの姿のスケッチを描いていたことからもライトの意図は明白です。
(もし私が設計を依頼されたらカウフマン氏の希望と同じく、やはり手前側に計画したでしょう。建物は北向きになりますが、日本の庭園と同じように背後からの日の光の移り変わりによって変化していく滝と流れの趣き、そして木々の表情などを楽しむことができるからです。)
ここで落水荘が建設される前の滝の写真を載せておきます。
初めの写真の場所から橋を渡って建物の後ろに周りこむと低いパーゴラが迎えてくれます。その下を歩いて左の石の壁の間にある入り口から室内へ入ります。
ライトの設計による建物のほとんどが入り口の高さを2mほどに抑えており、室内に入ってからの広がりをより強く感じさせようとしています。それは映画「華麗なるギャッツビー」の舞台になったエニス邸のような大邸宅やジョンソンワックス本社のような建物でも変わりません。
もういちど全景をみてみましょう。こんどは秋の夕暮れ時の姿です。
この建物が思っていたよりも小さいと書きましたが、それではなぜ写真では大きく感じられるのでしょうか。
それは建物を支えて垂直に立っている壁が水平線で構成された石積みの姿をしていることにあると思います。上下の力を強く感じさせるためにはその部分は水平線を強調した姿にするのが有効な手段です。このことが建物をより雄大な感じにしています。
水平に延びたコンクリートの部分は金色に近い色が塗られていますが、ライトは当初金箔を張るつもりでした。しかしカウフマン氏が反対し断念したとのことです。ライトは訪れたことのある京都の鹿苑寺の金閣が頭にあったようです。これはカウフマン氏に軍配を上げたくなります。
あと一つカウフマン氏の功績があります。それは居間の暖炉の前の床から自然の岩を削らずにそのまま露出させたことです。この岩はもともと滝の上にあって、建物が建つまでは夫妻はよくここに座ってくつろいだ場所でした。この提案にはライトも感激したとのことです。
よく見ると張り出したコンクリート部分が少し前に垂れ下がっています。これは建設途中で構造に不安を覚えた建設会社と現場を監理していた弟子がライトに無断で鉄筋量を2倍に増やしたためかえって重量が増したこととコンクリートが鉄筋に邪魔されて回りきっていないためではないかと言われています。この鉄筋量を増やす件はカウフマン氏の承認も得ていたそうですからライトだけが知らなかったわけです。
またライトは、あらかじめバルコニーの先端を上げてコンクリートを打つように指示していたのですがそれも無視されたようです。
最後に突然ですが、居間の隅にあるダイニングスペースの写真を載せます。
奥に2階から降りてくる階段が見えます。私はここでなんとも落ち着かない思いがしました。それはテーブルに着くと背後に階段があるからです。
階段の下の方に腰壁のある踊り場を造って下りる方向を右の居間の方へ振っていればダイニングはもっと落ち着いた感じになったし、2階から這うように下りてくる冷たい空気も防げたのではないかと思います。
2階から下りて来てほんのちょっと高い踊り場からダイニングを見下ろし、向きを変えて居間に降り立つ、いいと思いませんか?
しかし私にとってはこの建物は何度でも訪れてみたいものの一つです。
by wakakenn
| 2007-04-16 17:05
| F.Lライトの建築