集合場所の佐倉駅には9人のメンバーが集まり、まず駅前から無料バスで海老原一郎氏
設計の川村記念美術館に向いました。
朝から雨が降っています。若建の集まりのときは何故か雨の日が多いのが不思議です。
20分ほどで川村記念美術館に着き庭園に入ると目の前に池が広がりガチョウが出迎え
てくれました。
ここから右手の美術館に向かいます。
建物外壁や入り口横ではモダンアート作品が出迎えてくれました。
日本の美術館の多くがそうであるようにここでも室内は撮影禁止で、せっかくの海老原氏
設計の美しい室内も紹介できません。
展示品はルノアールから現代絵画まで巾広く展示されており、一人の画家専用に造られた
六角形の部屋にはその画家の抽象絵画の大作が周囲の壁全てに展示されて一つの雰囲
気を作りだしていました。
美術館を見終わって敷地内のレストランでおいしいスパゲティとコーヒーで昼食としました。
このあと佐倉駅にもどり電車を乗り継いで土気(とけ)駅に向かいました。
実は今日の見学会の主要な目的であるホキ美術館で設計者の話が聞けるセミナーに参加
するためです。
土気駅からは歩いても20分くらいなのですが、雨なので3台のタクシーに分乗して美術館
に向いました。
美術館に着いて外観を見てまわったあと、新たに都幾川町から参加したOさんたち4人の
メンバーと合流して2時半に中に入りました。
この美術館のオーナー保木将夫氏は病院で使われる医療用の不織布製品を幅広く手掛
けて成功した人で、絵画にも関心があり、主に写実的な絵を中心に集めてきました。
それらの絵を今までは自宅で一部の人たちに公開していたのですが、一昨年秋に日建
設計の設計でこの美術館を造って一般に公開することにしたのです。
初めて訪れたメンバーたちは、描かれた人物の息遣いまでも聞こえてきそうな絵に圧倒
されたようです。
静物、風景もすばらしい表現力ですが、やはり人物の絵に写真を越えた絵画ならではの
伝わってくるものがあります。
今日の主要目的である4時半からの設計者のセミナーまで2時間をとっていたのですが、
最後はほぼ駆け足状態でした。それほど一つ一つの絵はじっくりと観るに値する作品
でした。
4時半からのセミナーには事前に予約していた60人ほどの人が集まりました。
講師は建物の設計を担当した(株)日建設計設計部の鈴木隆氏です。
まず外へ案内されました。
保木氏と日建設計で探し当てたこの土地はもともとはT不動産が分譲宅地として開発
許可をとっていた場所で、建築基準法上からも美術館の設置が認められない土地でした。
しかしT不動産としても美術館の存在は宅地販売の上でも大きな利点となりますし、
保木氏にとっても南を緑と来園者が多い昭和の森に接し、交通量の多い幹線道路から
入った閑静な住宅地にあるこの敷地は魅力的でした。
市と交渉して特別に建築許可をもらいましたが、昭和の森とつなげたい思いの前に
またも行政の壁がたちはだかりました。
森と美術館との間に道路がありますが、こちらの敷地内にも分譲許可を得た時の周回
道路があります。
この道路と境界のフェンスをとりやめて森と一続きにしたいのですが、すでに道路を
造ることで許可がおりている上、森と区画された市の所有物のフェンスも予算がついて
設置した以上原価償却がすむまで撤去できないということでした。
それでもなんとか交渉して一部分を人が通れる巾に切ることで決着したとのことです。
さて建物です。
敷地が写真左手の西側からゆるやかに下っているので、長さ30mのキャンティレバーの
部分は実は1階にあたります。
ここはどのような構造で支えられているのか我々にとっても大いに興味があるところ
ですが、資料の断面図での説明では、先端から見て右側の1/3が大きなボックスとな
って延びていて、それで持たせているそうです。
ただ万一のときは床下に支えの柱が設置できるように地中に基礎を、建物側に柱受けを
設けてあるのですがそれを使うことはなく、結局は幻の柱となったそうです。
昨年の大震災のときにも大した揺れもなかったというから驚きました。
そして建物がなぜこのような形になったのかが鈴木氏から説明がありました。それによると
住宅地に建てるのですから住宅の高さ以下におさえたいと思ったそうです。
傾斜のある敷地の西側入り口部分をGLとしそこからキャンティレバーの部分を東へ延ばし
その他の展示スペース及び施設は地下に設けるようにしたとのことでした。
また、1階展示スペースをキャンティレバーにしたのは、住宅地と昭和の森との間にできる
この美術館がお互いを隔てる壁にならないように上下が透ける形にしたかったからだそうです。
さらに住宅地にある個人の美術館に人をひきつけるためにはインパクトのある形が欲しかっ
たとのことでした。
キャンティレバーのギャラリーの道路側壁面下部をガラスにしたのも、昭和の森から帰る人
たちに展示してある絵が見えるようにすることで興味を持ってもらうためということでした。
その努力のかいあって来館者は予想をはるかに上まわり、入り口に設けた傘を突っ込んで
収納するように考えた壁の穴ではまにあわず、この日も狭い入り口にステンレスの傘立て
が3台も並んでいたので狭く絞った入り口スペースが狭く感じたのはちょっと残念です。
入り口から右に行くと美術館オーナーの保木氏が自分の舌で選んだレストラン「はなう」が
あります。
左に行くとショップを経て受付があり、ロビーとなります。その突き当たりは大きなガラス
壁となって外が見えます。
そこでUターンして右壁の裏へ周るとキャンティレバーのギャラリーです。
(セミナー中は作品自体を除いて館内の撮影を許可されました)
右壁の下がガラスになっているので前に説明したように道を行く人から左壁の絵が見えます。
左の壁は大きくうねっているのですが、この壁と左にある外壁で大きなボックスを造って
構造体とし、30mのキャンティレバーを実現させています。
また、ここには制震装置があり、鑑賞者が歩くことによる揺れを防いでいるそうです。
絵は、設置する金物が現れるのを防ぐ
ためにマグネットによって壁に取り付け
られています。
ギャラリーの先端近くにはガラスがはまっていてそこで折り返して内壁の後ろに設けら
れた階段を下りて行くと、日本の写実絵画の大御所といわれる森本草介氏の絵画30点
あまりが展示されたギャラリーに入ります。
森本草介氏の絵は保木氏がお気に入りなのだそうです。
上のギャラリーは構造体は厚い鋼板でしたが、ここからはコンクリートです。
ギャラリーと階段との境に設けなければならない目障りな防煙垂れ壁をなくすために、
天井をカーブさせて下げてそれにあてたそうで、カーブは展示されている絵のモデルの
お尻からとったという鈴木氏の説明で参加者から笑いがもれました。
最後にさらに下のギャラリーへ巾が広い階段で下りていきます。
ところが工事していてわかったことはここの音響がすこぶるよいということでした。
そこでこの階段を座席にしてコンサートができるようにと考え、余計な反響を防ぐ
ために階段の蹴込み部分をなくして音が抜けるようにしたそうです。
階段後ろのギャラリーから見ると蹴込みがないので向こうが透けて見えています。
もし蹴込みをつけていたらこの部分はどのような空間として考えていたのか質問
しておけばよかったとあとから思いました。
2時間にわたるセミナーが終わり、小雨降る中をバスで土気駅に向って今回の見学
会は終了しました。
私以外のメンバーはどこかで飲み会をするそうですが、新宿発9時の特急あずさに
乗らなくてはならない私は御茶ノ水で皆と別れました。
最後にこの企画をまとめてくれました浪崎さん、市川さんに感謝をいたします。
大変有意義な見学会でした。